消えたお店(2)

一人雰囲気の悪い人間がいたために、お店の従業員の士気は消え、お店まで消えてしまった例です。

葵区の街中のビル1階にフレンチレストランが開店しました。
繁華街からはちょっと外れた場所ですが、周囲には他にも有名な店もあり、公園のような通りに面した、落ち着いた大人向きの場所です。

このフレンチは料理の評判が良く、単価は高い方でしたが、開店早々で固定客がつきだしました。
オーナーは、大変腕が良いという評判のシェフを招き入れて、大分力を入れての開店だったようです。

しかし、この腕の良いと言われていたシェフが問題でした。
このシェフは暴君で、若い調理人をフライパンで殴ったりしていたそうです。
調理の世界では、暴力やいじめが徒弟制度の元で行われることは珍しくないのかもしれませんが、
ホテルのように厨房と客席とが離れているところでならまだしも、一般の市井のお店で、客席から厨房の一部が覗けるような、そんなお店での罵声や暴力はいただけません。

厨房のそういう空気は、いくら隠しても従業員が引き摺ってきますので、客席にも伝播します。

料理の評判は良かったのですが、お客が敬遠するようになりました。
そうこうしているうちに、お店は従業員がいるのかどうか判らないようになり、営業しているのかどうかも判然としない状況になりました。

そんな状態が長く続き、いつの間にか、お店は閉まっていました。


調理人が経営者で、料理の腕は良いが、個性的すぎるために、一般受けはしないが熱烈なファンを持つ店もあります。こういうお店は、増長してつぶれる場合もありますが、その個性を暖かく見てくれるお客様のお蔭で、長く続いているところもあります。

このフレンチは、お店の経営者は別にいました。
任せっきりでなく、お店の状況に関心を持っていたようですが、
問題の腕の良いというシェフはオーナー自らが頼んで店に来てもらったために、
そのシェフの風評を聞いていても、すぐにはテコ入れができなかったと思います。

その結果、本来、組織運営上からいうと、一番排除すべきを排除せずにいたために、若い有為な調理人を失ってしまったのです。
オーナーが技能者でないために陥りやすい罠にはまったと言えます。

自分がその専門でない場合、お店の存続、繁栄条件は技能によるところが全て、とまではいかなくても、第一条件と考えやすい方は多いようです。
こうした思考は真面目な秀才の方の陥りやすい陥穽と思えますが、実際に評判の良いお店は技能だけが秀でているわけではありません。

そんなに単純なことではないのが、また面白いことに思えます。






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