中学2年生の頃(3)

剣道部の3年生の中に、ひときわ体が大きく腕力のあるAがいました。

3年のクラスの中で、Aのクラスはまとまりがあるように見えました。
恐らく、同じクラスの男子生徒はAの言われるままだったのだろうと思います。
私達の教室は2階にあり、Aのいる教室の隣でした。

その内、ある変化がありました。Aが何かを感じ取ったのかもしれません。

終業後、帰るために教室から出ると、私達が帰る方向の廊下の両側に3年生の男子生徒が、ずらっと並んでいるのです。
Aの息がかかったのでしょう。

私達は、廊下の両側に並んだ3年生の間を、S君を挟みこむようにして通っていきました。
3年生達は、私達が目の前を通る際に、S君や私達に罵声を浴びせかけました。

この時の緊張感は何とも言えないものでした。横から、あるいは後ろから、いつ殴りかかられるか分らない状況です。校内のオフィシャルの場ですが、弱みを見せればやられると思いました。
(校外に出ると、後ろから石が飛んでくることはよくありました)

弱みを見せられないと思っていたのには、もう一つ大きな理由がありました。
自分達が弱みを見せたら、仲間だと思っていた友人達もいなくなるだろう、と肌で感じていたからです。
I君以外は、3年生の味方にはならないにしても、自分達から離れていくだろうという予感のようなものがありました。
そんなことは話したことはありませんが、I君もそれは感じていたでしょう。


私は、親にも兄にも学校で起きていることを相談しようとはしませんでした。
担任のN先生が家庭訪問のときに、お宅の息子はブラックリストに入っているなどと話したために、母は私のことを案じていましたが、親を心配させたくないというよりも、親に相談するなどという選択肢は、自分の中に最初からありませんでした。
多分I君も同様だったろうと思います。
今の時代なら、帰ってから携帯電話でI君と連絡を取り合い、作戦を立てたり、励ましあったりもできたでしょうが、一人で問題を抱え込み、それぞれ悩んでいたのです。


3年生のAと同じクラスに仲の良い先輩がいました。その先輩も、毎日帰るときには廊下の両側の列の一員となり、私達を迎え撃つ側にいたのですが、ある日、ちょっと離れたところにいたその先輩は、私の名前を呼ぶと、「負けるなよ」と耳打ちしてくれました。私は少しホッとしたのと、恐怖心で今まで目が曇っていたのが、視界がふっと開けるような気がしました。
Aさえ抑えられれば、相手を崩せるのではないかと思ったのです。

また、意外なことに、同じクラスの女子生徒の一部が、何か不穏な動きがあり、S君や私達が呼び出されるようなことを察知すると、すぐ職員室に駆け込み、先生に助けを求めてくれたのです。
私達は何度か助けられたことがありましたが、Aはそのことを察知して、ある日女子生徒達を脅しつけました。
怖かったことでしょう。しかし、彼女達は気丈にもAを睨み返したのです。





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