思考訓練と思考停止(7)

私は数多くの人や書物の影響を受けている筈ですが、自分が影響を受けたと自覚して、記憶に残っている書物等は残念ながらそう多くはありません。大部分を忘れてしまっています。
それでも、覚えている書物に目を通し、初めて目にした時の感動を思い起こしたりする時間をとても楽しく感じます。

中には、影響を受けたことを十分理解してはいるのですが、決して読みたいと思わない本もあります。しかし、その中の一節を無性に目を通したくなる時があります。その一つが、あまりにも有名な本ですが、ヴィクトール・フランクルの「夜と霧」です。

こんなことまでやったのかと胸が悪くなりますが、その後、ポルポトを知った時なども、「夜と霧」を読んだ時と同様の気持ちになりました。

民族浄化といえば、「夜と霧」の世界、おぞましいナチの犯罪行為です。
しかし、これと同じことを、現代社会で行っている国があります。それも経済大国です。


話を本題の尖閣問題に戻したいところですが、脱線続きで、今日も違う話題です。


現代社会では化石のような命題かもしれませんが、人間どう生きるべきかという命題について、尖閣問題よりも分かりやすいエピソードをもって、日本の政治家やジャーナリストに問うてみたいと思うことがあります。

日本のマスコミや政治家の多くは、これまで尖閣問題に対して相手に配慮する態度を取ってきましたが、尖閣問題ごときでそんな有様です。
尖閣以外のことは、はたして見ていないのか、気がつかないのか、見ようとしていないのかという問いです。

チベットウイグル、モンゴルで行われていることは、現代の民族浄化です。
中国政府が秘密にしていることを良いことに、日本の政治家やマスコミは知らん顔です。亡命者や勇敢なジャーナリストの報道を伝え聞くことがあっても、無視しているかのようです。


中国政府は「政治犯」として数十万人もの東トルキスタン人を処刑したといわれています。
また、妊婦は「計画生育」を行うという理由で胎児の中絶を強制されているそうです。
チベットでも、同様なことが行われ、不妊手術も行われているというレポートもありました。漢民族以外は、産まれないようにということでしょう。産まれんとする胎児は母親の体内で殺されているのです)


また、こうした抑圧している地域に核実験場を設けたり、核廃棄物処理場を作ったりしています。
ウイグルでは公式発表でも46回の核実験を行っています。

『核汚染はない』と中国政府は公言していますが、核実験場は最も近い居住エリアから10キロしか離れていなかったという指摘もあります。

核問題で積極的な発言をしている高田純札幌医科大学教授によりますと、
『2002年8月以降の調査で、中国が東トルキスタンで実施した核実験によって、同自治区ウイグル人を中心に19万人が急死し、急性放射線障害など健康被害者は129万人にのぼり、そのうち、死産や奇形などの胎児への影響が3万5000人以上、白血病が3700人以上、甲状腺がんは1万3000人以上に達する』と発表しています。

『核実験の被害は地表で行った場合が最も深刻です。空中や地下でのそれに較べて、核分裂生成核種が大量の砂塵となって周辺や風下に降りそそぐからです。ですからソ連でさえも人々の居住区での地表核実験は避けてきました。それを中国は強行し、結果、日本人も大好きなシルクロードにも、深刻な放射線汚染をもたらしています。こうした一切の情報を、中国政府は隠し続けています』
また、被害はシルクロードに憧れて周辺を訪れた日本人観光客27万人にも及んでいる恐れがあり、影響調査が必要であると同教授は指摘しています。

中国が秘匿している核実験の悲惨さを、初めて国際社会に伝えたのは、英国のドキュメンタリー番組です。
英国のドキュメンタリー番組は日本でも時々放送されますが、その質の高さには、いつも感心します。

英国の「チャンネル4」によるドキュメンタリー、「死のシルクロード」がそれでした。98年8月に放送された27分間の作品は、世界83ヵ国でも放送され、翌年、優れたドキュメンタリーに与えられるローリー・ペック賞を受賞しました。


日本のジャーナリストは当然把握していることでしょうが、話題にされることはないように思います。
尖閣問題や福島原発事故のことをあれだけ騒ぐのであれば、この件も、多少は話題にしても良いのではないかと思うのです。

英国にとっても中国市場は魅力であり、多くの企業が進出しています。しかし、言わなければならないことは言っているのです。
仮に、日本の放送局が「死のシルクロード」のような作品を作ったとしても、権威のある賞など与える度胸はないでしょう。
候補になっても、中国を刺激するだけだからと、賞を与えるのを見送るようにという圧力をかける度胸と強さは持っていても。

人間いかに生くべきか。古臭い命題かもしれませんが、今の日本にとても必要な命題だと思います。





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