憧れの地の大いなる幻滅(2)

NHKのドキュメンタリー番組と言うと、シルクロードのシリーズ物の映像が印象に強く残っています。再放送もされましたので、その美しい映像を見て、今尚憧憬を抱いている方々も多いことでしょう。

1980年4月から放映されていたNHK特集 シルクロードは、NHKと中国の中央電視台による共同制作番組でした。その後1980年代に、続編が作られ、歴史を感じさせる壮大な作品は、喜多郎の音楽と石坂浩二のナレーションとあいまって、人気番組となり、シルクロード関連は大きなブームになりました。

日本でもよく知られている、古代オアシス都市楼蘭。女性のミイラが発見され、楼蘭の美女として、復元もされて評判にもなりました。
このミイラの衣服は放射性炭素による年代測定が行われ、ミイラは紀元前19世紀頃の人物と推定されました。歴史のある古代都市の全貌はまだつかめていません。
楼蘭は漢の時代に漢や匈奴などの間で、その時その時の強国の覇権下で、したたかに生き、また、強国達にに翻弄されてきたようです。

シルクロードの当時の美しい映像と音楽とで、特に文明、文化に興味のある人以外でも、大きな憧れを抱いた方は多かったと思います。
歴史や地理の教科書にも出てくることもあり、日本人には馴染みのある地域です。

そういう下地がある中で、NHKの美しく、雄大な風景と、民族の歴史を感じさせる市場の様子、仏教の遺跡などの映像は視聴者をひきつけます。
当時の技術としたら、きっと最高レベルに近い映像だったろうと思います。この素晴らしい映像を毎回録画された視聴者の方も多かったのではないかと思います。

この頃シルクロードは、中国が観光資源として海外にPRした事を受け、日本だけでなく他の国にもアピールされたようです。

シルクロードは現在の新疆ウイグル自治区に属する地域です。
マルコポーロが通ったとも言う歴史のある街道です。砂漠の中のオアシスに独特の文化を持った民族が住んでいます。
街には歴史のあるバザーなどを通じて、旅行者は独特の風俗に接することができます。
歴史ある都市遺跡が見られ、石窟の仏像など、歴史と人々の生活様式は魅力的です。
今尚、憧れの地という方も少なくないでしょう。

NHKの放映の影響もあり、当時、日本人の観光客の数は増えていきました。


NHKが力を入れたドキュメンタリー物の映像は素晴らしいものが多いです。BBCのドキュメンタリー番組と、映像技術などでは引けを取らないでしょう。

しかし、番組の質とはどういうものかを考えると、考えさせられることが出てきます。

対象を画こうと絵筆を取った時に、画家は自分のフイルターを通して対象に向かいます。
レーピンの作品からは、家族に対して作家の愛情を感じさせる優しい視線で対象を捉えているのが分ります。過酷な労働をしている人達には、その辛さや人々の疲弊した様子が。無実の死刑囚の祈るような表情、命乞いをする姿態。
同じ対象を、別な作家が捉えれば、別なフイルターを通して、別な作品が出来上がります。

NHKのフイルターを通してできた作品は、美しい作品に仕上がりましたが、見ようによっては、観光ビデオのようにも思えます。
NHKのフイルターをもって、報道主体の質の面で、NHKは選ばれる報道機関たるのでしょうか

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