憧れの地の大いなる幻滅(8)

中川氏の件を補足します。

中川氏は、日本興業銀行勤務の経験もあり、財務・金融に詳しく、理論派の実力大臣でした。
日本の景気が落ち込んでいる時に、健全とは思えない経済活動を行っているアメリカに資金援助をすることに否定的でした。日本経済が大変なのに、アメリカ国債を買い支えすることにも疑問を呈していました。

ある意味正論だと思いますが、日本製品の大量消費国でもあるアメリカが沈んでしまったら、日本にとってのダメージも大きくなりますので、健全とは思えない経済活動の比重が高くなっているといって、アメリカを支えないのは、若干ナイーブ過ぎるように私は思います。しかし、中川大臣は優れた胆識の持ち主です。

ともあれ、金融政策や経済政策に精通していて、アメリカの要請には、その内容を吟味して、おかしいと思えば異論を唱える正統派の大臣は、財務官僚からすれば、さぞ邪魔臭い大臣だったことでしょう。
日本の財務官僚はアメリカ通の役人が多く、コネクションもあるために、日本の財務大臣よりもアメリ財務省に重きを置く倒錯した精神状態になる場合もあるだろうと思います。(アジア大洋州局の官僚にも、同じような倒錯性を感じる時があります)。日本の大臣や政治家のレベルが低ければ、また、自分達の能力や見識が高いという自負が強ければ、関係の強いアメリ財務省等のつながりが深くなるのではないかと思います。基本的考え方が相容れるものであればですが。

優秀でプライドの高い財務官僚は、大臣よりも自分達の方が経済のことは良くわかっていると思う場面が多いことでしょう。なんせ政治家が小粒になってきていますから。こういう状況では、アメリカは良きパートナーに映るでしょう。官僚達にも、アメリカ国債を購入するようアメリ財務省から何らかの要請があれば、アメリカと良好な関係を維持していきたいと願う官僚にとっては、アメリカに対して厳しく映る(実は、アメリカに厳しい訳ではなく、筋が通っていないことに厳しいのですが)実力大臣は煙たい存在になります。

橋本龍太郎氏が総理の時に、コロンビア大学での講演で、聴衆の質問に対して半ば冗談でアメリカ国債を売却する誘惑にかられた話をしたため、ニューヨーク証券取引所の株価が下落したことがありました。このため、アメリカから橋本氏に強烈なバッシングが起きたということです。
橋本氏の死因は腸管虚血が原因とされていますが、実際は毒殺されたのではないかなどと言う噂が出てくるのも、こうしたアメリカから反感を買ったことがあるからでしょう。同様に中川氏にも他殺の噂がありますが、父親の中川一郎氏の死因がいまだに疑問視され、絞殺後首を吊られたのではないかと考える人も少なくなく、そうした連想も中川氏の死に疑問を抱かせるのかもしれません。

さて、噂話続きですが、
中川氏が会見前に、側近達と飲んだワインに薬が盛られていたという噂があります。
このとき、中川大臣を陥れたとされる、その後IMF専務副理事になった財務官僚や、金融局長、マスコミ人の名前も、ネット上では実名で出ていたりします。ネット情報のソースと思える書籍も出ているようですが、私は読んでいません。この著者の他の書物を読んだ時に、著者はセンセーショナルでオーバートーク気味な人だなと思いました。真実を突いていると思う所もあり、それなりに面白いのですが、どうも、すんなりとは信用する気になりません。

IMF専務副理事になったのは、中川氏の作為的な記者会見をきっかけに退陣に追い込んだ論功行賞などと噂されているようです。
確かに、会見の映像を見たり、筋道立てていくと、あながち荒唐無稽な話ではないようにも受け取れますが、これらの当事者達がネットの意見には反論しようにも反論するきっかけもないでしょう。反論するに値しないと思っているかもしれません。

事の真偽がどうあれ、言いっぱなしが憶測をどんどん生んで話が広がっていくというのは、ネットの限界の一面を表していると思います。
マスコミには、こうした背景を調査・報道してもらいたいところですが、こういう所で、うまく、ネットと実社会のギャップを埋めるような仕組みができないものかと思います。
ネット情報は玉石混交で、個人の頭の中の妄想を、体系化して表出しているだけの場合も多く(私も人のことは言えませんが)、情報の受け取り手が、よほど注意して自分の頭で考えて咀嚼していかないと、根拠のないことを世の中に広めることに手を貸してしまうことになりかねません。

そういう危うい面はありますが、ネット情報の中には、リアルな世界では表で言えない真実に近い情報も多く存在するように思います。
この種のネット情報と取材力のある報道体制とを融合させる形で、新しい形の報道スタイルができれば、現在のマスコミとは違って、多くの人の支持を得ることができるのではないかと思います。

(おおっと、大切なことを忘れていました。マスコミに取材能力がないから問題なのでしたね。
官製発表を疑問なくそのまま報道するのに慣れてしまったマスコミが体質改善できれば、もう少し生き永らえることができるかもしれません。

今のマスコミ業界の実情を示す良い例が、最近起こりました。
iPS細胞から心筋細胞を作って患者に移植したと主張していた森口尚史氏を、iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術を実施したと、読売新聞がスクープして他のマスコミも追随しましたが、この件が今のマスコミの程度をよく表していると思います。

森口氏の映像を見る限り、失礼ながら、何かおかしなヒトだなーという感想を持った視聴者の方は多いのではないでしょうか。普通なら、コイツはチョット裏取った方がイイゾ、と思うでしょう。

スクープ競争で、他社よりも一歩先んじたいという記者魂があったためのスクープなのでしょうが、この記者魂はジャーナリズムとはかけ離れてしまっているのですね。
普段の記者活動が、権力者側の発表を鵜呑みにして、ウラを取ることなく文字にするだけというのが取材活動だというのが良くわかります。この体質に甘んじていては拙いですね。マスコミだけではなく、外務官僚の情報収集能力にも、同様な危険性を感じます)