憧れの地の大いなる幻滅(11)

視覚では認識できないほどの作為的映像を、例えば一つの番組の中で、何度も何度も繰り返して放映することで、視聴者に特定のイメージを植えつけることが可能です。

日本のTV局は禁止していますが、その効果が確認されているからか、時折こうした映像を流すことがあります。

このサブリミナル効果を狙った放送は、人に知覚できない映像を流す場合がほとんどですが、視聴者の映像機器が高性能化していますので、一般の視聴者からサブリミナル効果の映像番組ではないかと指摘される場合も出てきます。
作る方は、どうせ分かりっこないと高をくくっているのでしょうが、一般人と専門家との差がなくなりつつあるように見える分野が増えていると思うのですが、映像処理の部門でも、それは言えるように思います。自分で撮った映像を加工・編集して、You Tubeやニコ動等にアップさせる人も数多く、その編集技量も目を瞠るものも少なくありません。

サブリミナル効果のように秘匿したものが暴かれると、世間からの非難がとても大きくなるものです。
それなら、いっそ、視聴者に知覚できても、それが作為映像だと気付かれないような映像制作をし、効果はしっかりとサブリミナル効果以上の物を作ればよいのではないかと考えてか、人間の心理を研究して、視聴者の盲点となる露見しにくいような映像を放送するTV局が出てきています。

一見、御愛嬌に思える映像も多いのですが、深層心理に影響させることで、例えば選挙の投票行動に影響を与えたりすることも可能と思えます。
こういうことをチェックすることを、報道の自由を損なうものだなどと批判する知識人が多そうですが、それを言うなら、偏った報道をしないで、世の中に起きていることを等しく知らせるべきではないかと思うのですが、そんな気持ちを持った大手マスコミはほとんどない状況に見えます。

さて、判りにくい映像を放映することで、潜在意識に働きかけて、視聴者の顕在意識に影響を及ぼそうというのが、憧れの地の大いなる幻滅(10)でしたが、 

憧れの地の大いなる幻滅(7)では、視聴者に映像を露骨に認知させることで、対象のイメージダウンを図る事例を取り上げました。

この手法を取る際に、その報道の善悪の大まかな基準は、その内容が事実かどうかということになると思います。
事実であれば、何を流しても良いかと言えば、品格の問題や視聴者が嫌悪感を感じるかどうか等の問題はありますが、報道する必然性を感じさせる内容・映像等であれば、仮に非難を浴びても、報道の自由を守ろうとする勢力は現れるでしょうし、視聴者からの支持も得られることでしょう。

しかし、日本のマスコミは、視聴者が認知できる映像をでっちあげて放映する場合があります。
サブリミナル効果の映像の放映は名目上は禁止ということになっていますが、実質的には自粛程度で、由々しき場合は厳重注意になる場合もあります。
しかし、このサブリミナル効果よりも、視聴者に与える影響はずっと大きいリアルな映像で、より悪質なでっち上げ報道をしても、何の咎めもなくすんでいるというのは、恐ろしく不自然なことに思います。


ちょっとしつこいようですが、再度中川昭一氏の問題を取り上げます。

中川氏は国際的にも評価が高く、大きな功績を残した政治家だと思いますが、マスコミはプラスの面は殆ど取り上げることなく、酒にだらしない常識のない政治家という烙印を押して抹殺しようとしました。

私は中川氏程、体を張って精力的に動いていた政治家は少ないと思っています。自分の利を慮って右顧左眄するようなところはなく、正論を堂々と主張する姿勢を見ると、ぐうたらな自分の背筋も伸びるような気がします。

北朝鮮拉致問題にも積極的に関わり、拉致議連の会長も務めていました。当時の拉致家族会代表の横田めぐみさんのご両親からも、信頼され、頼りにされていた、情熱にあふれた行動する政治家でした。

中川氏の死を知って、多くの人達が涙を流しました。一政治家の死が、選挙区以外の多くの一般人の方々をも、心から悲しませた事例を、中川氏以外に私は知りません。

G7の時の朦朧会見は作為的と言われています。私も、どう考えてもおかしいと思います。不自然な点が多く、仕組まれたものとしか思えないのです。

G7の時の、朦朧会見の直後に、中川氏はバチカン美術館を約2時間観光しましたが、

「その際にも中川は美術品に触れる、柵を越えて警報を鳴らす、彫像・ラオコーン像の台座に座るなどの不適切な行動をとっていた」と、日本のマスコミに報道されました。


バチカン博物館を見学したのは、この朦朧記者会見の何時間ほど後のことなのか、時間の経過までは調べられませんでしたが、マスコミと官僚とによる作為的な記者会見の直後のことと言われています。
朦朧記者会見が、マスコミの言うように飲酒が原因とするならば、あの辛そうな朦朧としている状態まで酒を浴びていたならば、その直後にバチカン博物館を見学したこの時も、アルコールが体に廻っており、見学するどころではないと思います。酒の匂いも周囲にまき散らしていた筈です。

下記に、雑誌「正論」に掲載されたバチカン神父の証言を引用します。

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バチカン神父が見た“あの日”の大臣】  バチカン放送局 神父 和田誠                  
 
私は今、日本から送られてくる報道に、大きな戸惑いと、深い悲しみを抱いています。

私自身も関わった中川前大臣の博物館見学が、何故あのように、事実と異なる形で報じられるのでしょうか。

私は見学の間中、通訳として中川前大臣の最もお側近くにおりましたが、報道のような非常識な行為を、見た記憶はありません。

また、中川前大臣はあの時、酔っているご様子には見えませんでした。
私はアルコールを一滴も受けつけませんので、その臭いには敏感です。
しかし中川前大臣からは、お酒の臭いはしませんでした。

以下、日本の報道のどこが事実と異なっているか、ご説明したいと思います。

今回の問題を最初に報道した朝日新聞に、こう書かれています。

《(バチカン博物館に)到着時から中川氏の足取りはフラフラとおぼつかなく、言葉もはっきりしなかったという。
案内役の説明を聞かずに歩き回ったほか、入ってはいけないエリアに足を踏み入れたり、
触ってはいけない展示品を素手で数回触ったりした。そのために警備室の警報が少なくとも一回なったという》

足取りがふらふらしていたかは、見る人の主観によるものでしょう。
しかし言葉がはっきりしなかったとは、いったい誰が言っているのでしょうか。
見学の間中、中川前大臣とお話したのは通訳であった私です。中川前大臣の言葉は、非常にはっきりしておりました。

「案内役の説明を聞かずに歩き回った・・・」というのも、おかしな話です。
案内役とはイタリア人ガイドの事でしょうが、彼女のイタリア語の説明を中川前大臣が聞けるはずがありません。

中川前大臣は、私の通訳を聞いていたのです。
私が通訳をしている間は、もちろん歩き回りなどしませんでしたし、非常に熱心に耳を傾けておられました。

「入ってはいけないエリアに足を踏み入れたり、触ってはいけない展示品を素手で数回触ったりした」というのも、私には大いに疑問です。
少なくとも私は、明らかに非常識とされる場面は目撃しませんでした。

一つだけ心当たりがあるとすれば、朝日新聞の記事に出てくる次のような指摘です。

バチカン博物館でも特に有名な、「八角形の中庭」の「ラオコーン」像を見学した際には、観光客が近づき過ぎないようにするための高さ三十センチのさくを乗り越えて石像の台座に座るなど、非常識な行動をとったという》

この時の様子は、私も覚えています。
さくというのは誤りで、実際はロープでしたが、中川前大臣がラオコーン像に見入るあまり、ロープを越えて近づいたのは確かです。
このため、そばにいた警備員がイタリア人ガイドに一言二言注意しましたが、
中川前大臣はすぐ戻ったため、特に問題にはなりませんでした。
「石像の台座に触る」こともしていません。

記事が指摘するような「非常識な行動をとった」とは、私を含め周囲の誰も思わなかったことだけは、述べておきたいと思います。

バチカン博物館は規模が大きく、普通に見学すれば五~六時間はかかります。
そこを一時間半ほどで見て回り、しかも世界最大級の教会堂建築として知られるサン・ピエトロ大聖堂まで見学したのですから、相当な急ぎ足で、とても「フラフラ」できる余裕はありませんでした。

しかし、十分な時間はとれなかったとはいえ、このときの見学は、とても有意義であったと私は思っています。

中川前大臣は私に、美術と歴史に関する事を、とても気さくに話しかけて来られました。
お話の内容から、とくに古代ローマへのご関心が高いようでしたので、私はイタリア人ガイドに指示して、ローマ美術とそれ以前のエルトリア美術を展示してあるコーナーを集中的にご案内しました。私は通訳の役目を、十分に果たしたものと満足にしていました。

ところが一週間後、あのような報道がなされたのです。

この間、バチカンで中川前大臣の「非常識な行動」が話題になった事は全くなく(そもそも非常識な行動などなかったのですから話題にならなくて当たり前ですが)それこそ寝耳に水の思いでした。

朝日新聞の報道ののち、私は日本の新聞社、通信社、テレビ局から取材を受け、事実かどうかと聞かれました。

そこで、中川前大臣の行動に非常識な点はなかったと繰り返しご説明したのですが私の発言は一行も報じられませんでした。

日本のマスコミはすでに、中川前大臣は酔っていたはずだ、非常識な行動をしたに違いない、という先入観にとらわれており私の意見をまともに聞こうとはしなかったのでしょう。
どの報道も朝日新聞と似たり寄ったりだったことは残念でたまりません。

中川前大臣には、ご同情申し上げます。また、御家族をはじめ身近な人たちのご心痛を思うと、やり切れない思いです。

私はたまたま通訳として、今回始めて中川前大臣とお会いしましたが、その場にいたものとして、事実と異なる報道で苦しんでおられるのを見過ごすわけにはいきません。

このため取材にも積極的に応じてきましたが、記者たちの先入観を改めることはできませんでした。

今はただ、バチカン観光における誤解が一日も早く解け、皆さまに心に平穏が訪れるよう、祈るだけです。

                                  正論2009年5月号 P100〜101

                                                                    • -

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読売や朝日の数分の一の購読数で、格上と言われている新聞社等から圧力をかけられるという悲哀を味わうこともあります。北京からは早い段階で追放されたりと、相手におもねることをせずに、報道姿勢に芯が通っているため、また、強いものに右顧左眄して、批判しやすい相手には、とことん強く出るようなマスコミとは違うため、とても煙たがられます。

上記のような記事は、残念ながら、産経新聞系列のマスコミしか取り上げてくれないというのが実情ではないでしょうか。