公共投資から地方分権を見ると(3)

公共投資の対象となる事業の需要予測は、
道路や橋などでは、周辺の時間帯別・方面別の交通量や渋滞時間、また事故の発生場所や時間、原因等を調べれば、どういう手直しをしたら良いか、また、投資は必要ないかということは、判断しやすいと思います。

静岡のような地方都市では、交通量が多い道路の、交差点前で右折車線がない場所では事故が起こりやすくなります。道幅が取りにくい場所では、右折車線の確保は難しいと思いますが、今まで確保できていなかった場所に右折車線ができている場合があります。マジックのようですが、よくよく見ると、なるほどなあと感心したりします。行政も工夫して頑張っているんだなあなどと思います。ちょっとしたところで、人の工夫や叡智を感じると、感心し嬉しくもなります。

こうした必要性が把握しやすいインフラへの投資の是非は分かりやすいと言えます。
他方では、箱物と呼ばれる施設は、その施設の建設が必要に迫られているわけではない場合が少なくありません。
ある程度街の規模が大きくなれば、新たに造ろうとする施設の代わりをなす既存の代替施設がある場合が多いからです。
施設利用率が高いのに既存施設の老朽化が激しかったり、仕様設備が旧式で今の時代に適応できなかったり、既存の施設の利用率が高いために、新しい施設の新設や既存施設の拡充が必要などという事情があるのでしたら、新たな投資で新設する施設の利用率もそれなりのものが見込めると思いますし、それだけ活用してもらえている施設の必要性は高いと言えるでしょう。

施設利用料をどのようにするかは、自治体の考え方や懐事情にもよりますが、仮に単独では運営が成り立たなくて、維持費の補填に毎年税金を注入するとしても、その補填は市民・県民の文化的な活動・生活を支え盛り上げることになり、その結果、自治体の活性化につながり、自治体に還元される場合もあると思います。
その場合でも、費用対効果は押さえなければなりませんが、この投資は、一概に無駄とは言えないものです。


さて、静岡市内にも、主に箱物と呼ばれ、建設後に維持運営していくために職員を貼りつけ、清掃やメンテ、施設管理を行い、利用率が低いのに、毎年税金をつぎ込まなければならない施設が、幾つか思い当たります。
十分稼働していて、県民・市民のために役立っていれば良いのですが。

中には雨漏りが止まらない豪華巨大施設などもあります。
お金はかけたのに(総工費706億円だそうです。静岡空港本体の事業費約490億円と比較しますと、何か高いような気がします。税金ですので、コストよりは見かけが大事と考えたわけではないでしょうが)、用途に対する適切な仕様を綿密に検討しなかったためか、中ホールは想定していたコンサート会場としてプロは使ってくれず、大ホールは数千人の会議もOKという本来の大規模コンベンションセンターとして使うような用途は地方都市ではなかなかないようで、利用率を上げる一例としてNBAも呼べるほどの会場(広さは)だそうですが、室内スポーツイベントにも適していないため、借り手がおらず、下手に民間に貸し出しすると、雨が漏るために損害賠償をしなければならなくなったりと(大呉服展などの開催は危険です。盆栽展などでしたら雨が漏っても平気でしょうが)、利用が限られるため稼働率の低い金食い虫と評される立派な施設です。


例えば著名なアーティストのコンサートも、この施設ではあまり行われずに、築年数は古いですが音響のノウハウを生かして考えて造られているのでしょう、市民文化会館で行う場合が多いのです。
つまり、新しい施設が既存施設と差別化できる機能を持っていないのです。差別化どころか、本来備えるべき機能も備わっていないと言うことらしいのです。
また、市民文化会館自体もフル活用されている訳ではありませんので、新しい施設の中ホールを有効利用するための需要予測はそれほど真剣に考えることも無かったのでしょう。
市の事業と県の事業とのすり合わせも十分ではなかったのでしょう。市と県とでは縦割り行政の弊害でなく、層別行政の弊害とでも言うべきものでしょうか。

利用率が低いと記しましたが、2007年度(平成19年度)の平均稼働率は83.0%だそうです。
83%!稼働率高いです!立派なものです。

しかし、どうも実感とズレがあります。どういう計算基礎で稼働率を出しているのでしょうか。
数千人規模の会議やイベントが可能で、容積の一番大きい大ホールの稼働率は大変低いと思いますが、大ホールも1部屋、20人用の会議室も1部屋として同レベルで計算しているのではないでしょうか。

稼働率83%で、この年の施設使用料収入は2億3548万円ということですが、年間の維持管理には12億円かかるそうです。
この稼働率の計算方法では、仮に100%稼働でも、毎年大赤字になります。

年間維持管理費12億円を、年間稼働率100%(ありえない数字ですが)の場合の収入でまかなえる(収支がトントンとします)と仮定しますと、仮に、施設使用料収入2億3548万円では、稼働率は19.62%などという数字になります。

出来てしまった施設の稼働率があまりに低ければ、県民から非難されますので、あまり批判を受けないような数字にしようと思う気持ちは分かりますが、高稼働率なのに大赤字になるというのは、事業性を最初からまともに考えていなかったことになります。何か特別の公共サービスを提供するような福祉関連施設では、採算とは別な観点で公共の事業を考える必要はありますが、単に入れ物を貸して運営していく施設ですので、当初の収支計画がズサンだったということになるでしょう。

他方、当初の収支計画が事業計画として適正であったならば、現実の稼働率は低過ぎて、もっと稼働をあげるための営業努力が足りないということになります。(実際は、担当者の方は一生懸命営業をされているようです)

また、この施設の建設は計画を建てて積算して、着工するまでに数年間タイムラグがあったそうです。この間資材の価格や人工はどんどん下がっていきましたが、数年後に工事が始まった際の工事費、材料費の価格は数年前の見積もり金額で発注したと言われています。これは受注を受けた会社からの話ですので、間違いないでしょう。お蔭でこの工事に関わった業者さん達は大変潤ったそうです。
民間企業でしたら、再見積もりを行い、工事費を徹底して絞るでしょうが、いったん予算が通った金額を変更するのは大変だということでしょうか。


毎年毎年大赤字を出して、それを市民・県民の税金で穴埋めしなければならない施設でしたら、造って欲しくないと私は思います。
この巨額な建設費をどこか養護施設などにでも寄付したり、基金にして奨学金制度の原資と運用に充てたりした方が、後々の底なし沼のような毎年毎年の税金の投入もありませんので、余程有益に思います。

建設後の利用率の少ない施設のために毎年の税金の投入をしなければならない施設は、地元に負担を強いる不要な公共投資の典型的な事例です。一般会計では帳尻が合わせられても、特別会計では実質的な累積赤字は増えていきます。
資産勘定が増えても、特別会計の赤字によっては財政が大変厳しくなり、住民にしわ寄せがきます。

イベントになかなか使ってもらえないイベント施設を造らなくても、民間の施設を極力利用したり、市の大規模施設でも利用率が低いところもありますので、そこを利用してやれば良いと思います。併設されている数十人レベルの会議室が何室もあり、料金も安いので私も利用したことは何度かありますが、採算ベースでの料金設定ではありませんので、これこそ民業圧迫のような気がしました。


上記施設が継続した赤字体質であるのは、基本的に、投下した投資金額と施設維持に関わる金額に見合わない利用料金を設定をすることで、見かけの利用率を上げている状況だということだと思います。この利用料金を今よりも上げると利用率は下がります。採算がとれるまで利用率を上げたら、借りる人がいなくなるかもしれません。

利用率の低い箱物は、造った後からも毎年毎年税金を投入しなければなりません。別に特別会計が赤字になることに文句を言っている訳ではありません。
箱物公共投資の破綻を糊塗しようと表面上の稼働率を上げることが、価格の面では民業を圧迫するレベルの料金体系となり、それを維持することで赤字がどんどん累積されていくという構造です。
どこかで断ち切らなければならないのですが、計画段階から完成後までの事業性の検証を継続しなくても、誰も責任を負う仕組みではないために、地方財政が破綻するまで、誰もメスを入れようとはしないのでしょうね。

ちょっと嫌ったらしいことを書いているようですが、別に嫌みで書いているのではありません。
地方分権の問題を、公共投資という切り口で考えていくと、行政の能力の問題がクローズアップされてきます。

蛇足ですが、上述の施設は、完成から5年後の2004年にスレート製の外壁が落下してから、5年間に合計40回の剥落落下が相次いでいるということです。落下対策には8億〜14億円を要すると試算されているそうです。踏んだり蹴ったりですね。