イノベーションについて

知人の会社は、日産のリーフを試しに購入して、社用車として利用しています。
先日その社長が、富士宮市にある自動車メーカーのプラスチック成型などの下請け部品を作っている会社を訪問したところ、その工場の一角で電気自動車を作っていたというのです。

社長は、「あんな小さな会社が電気自動車を作っているんだよ」と驚かれていました。
電気自動車は、他にも地方の小さな町工場や個人が開発に取り組んでいるのが、時折ニュースになったりします。

ガソリン車と比べると構造がシンプルなため、個人で取り組む人も多いのでしょう。
基本的構造は、モーターと電池をセットして、プラモデルを組み立てていく作業に似ているのではないかと思います。
エンジンとバッテリー技術が重要な役割を担うことになるでしょうから、基本はその他のパーツとの組み合わせに徹すれば、車の下請け会社で、自分の会社の製造する部品以外の知識もある程度ある人ならば、それ程敷居が高くないと思えます。

電気自動車は量産効果が出ないため価格がまだまだ高かったり、バッテリーの能力がまだ十分とは言いにくいこともあり、日本では官庁などのごく一部での使用にとどまっているようです。


アメリカでは90年代にカリフォルニア州排気ガスを出さない車の販売を義務付けたことから、電気自動車の開発が本格的に行われるようになりました。
温室効果ガスの抑制のため、1990年にカリフォルニア州で販売する自動車の一部をゼロエミッション車(ZEV)にしなければならないという規制ができました。
1998年までにZEVを販売車両全体の2%にすること、2003年に10%に引き上げることという内容です。

このため、いったんは、GMやフォード、トヨタやホンダなども電気自動車を投入し、カリフォルニアでは電気自動車は珍しいものではなくなったそうです。
費用負担の面から、ほとんどがリース提供だったために人気も出てきたそうです。しかし、人気が出たと言っても、全体の2%程度のことですので、量産効果も出ずにメーカーにとっては電気自動車の供給は負担だったことでしょう。
下手に人気が出て、他の州や、他の国がカリフォルニア州に倣ったら、自動車メーカーは窮地に落ち込むでしょう。

また、力の強い石油メジャーは、こうした動きは当然望みません。
自動車業界と石油業界の利害が一致したら大きな圧力になります。ロビイスト活動には大きな資金が動いたそうです。この頃はブッシュ大統領ですね。
カリフォルニア州に大きな圧力がかけられ、規制は撤回されました。

せっかくの、新しいイノベーション技術による商品の育成の道が断たれてしまいました。

アメリカ的とされるものの中の一つに、規制を撤廃することで自由競争が行われ、公平な秩序が生まれるといった幻想があります。
自由競争を阻む規制はいろいろなところで澱みを生みますが、企業や業界の行動は監視して抑える所は抑えていかないと大変なことになります。
地球温暖化、大気汚染、省コスト、生活者が望む方向と、企業活動の方向は一致しないことがあります。そのために、政府の規制が必要になります。すると企業は自分の利益のため、政治に圧力をかけるようになります。

日本でもこれまで同様のことはあったと思いますが、アメリカは力が大きいため、より粗暴さを感じます。

日本では、政府の裏をかくような行動を取って中国に取り入った経団連などの産業界が、今では撤退するのに大きな負担が必要なため苦しんだりしています。
プレーヤーはより公平な審判の元でプレーができるように、時の審判を教育していくことも必要ですし、国民も審判の目が曇らないように牽制していくことが大切なのだろうと思います。

さて、電気自動車の技術開発はいったん水を差されましたが、現在では世界中の自動車メーカーがしのぎを削るようになりました。

電気モーターは既存の自動車メーカーとは全く異なる企業が水準の高いものを作っています。バッテリーも同様です。

2大基幹技術が既存の自動車メーカーの手に拠らないため、大手自動車メーカーはこれまでの技術の蓄積の多くを活かすことができなくなるため、既存の自動車メーカーにとって、電気自動車が本格的に実用化される時は、驚異的なステージになると言われます。
小さな町工場で開発されている電気自動車が人気を博し、自動車業界の地図が塗り替えられることも考えられます。
ソニーやホンダのような町工場から世界企業になった会社が、また出てくるかもしれません。

トヨタ自動車がハイブリッドにこだわるのも、電気自動車にシフトすることは自らの強みである既存の技術を捨てなければならないからなどと言われます。
そうは言っても走行性能の膨大なデータ等、トヨタや既存勢力は先行者としての蓄積が生かせます。

さて、イノベーションが今までの技術を必要としなくなると、新たな挑戦者が現れて、既存の勢力を脅かしていきます。
技術開発と自由主義社会の醍醐味です。