主役交代(2)

日本では長期にわたり物価が下落してきました。

地価も、数年前にごく一部の都市部の特定地域でミニバブルが生じましたが、それ以外は下がり勾配です。

マイホームを担保基準とする金融機関からのローンを抱えながら、転職せざるを得なくなり収入基準が変わってしまったために、いったん清算して振り出しに戻ろうと考えた方がいます。家族で慣れ親しんだ家を売り払っても多額のローンが残ってしまいました。マイホームを取得する前は、借金はおろか、そこそこの自己資金がありました。毎月ローンの返済を滞りなく数年間行ってきたのに、以前の身軽な状態に戻りたいと思ったら、多額の借金が残ってしまったのです。

生産能力に対して需要が少ないという、デフレ特有の需給ギャップがありますので、消費が喚起されない限り需給の調整を行う必要がでてきます。そのために職を失う人が増え、新しく労働市場にデビューする筈だった若者が職に就けなくなります。
給与も同様に大勢では下がり勾配です。

企業は設備投資を控えますので資金需要がでてきません。日銀が金融緩和を行おうとして市中銀行にお金を廻しても、その先では需要がありません。実際にはお金がなかなか使われないのです。従前の日銀はここまでがお仕事で、後はどこ吹く風。それ以降の責任も問われません。
資金需要を起させて、資金需要を掘り起こすのは政府の仕事で自分達は関係ないのです。
政府が資金需要を喚起させて企業の体力を強くして、個人の生活を豊かにしようと考えて、インフレターゲットを掲げようとすると、効果が薄いだろうなどと、まるで他人事のような言い方をして自分達は涼しい顔。
長いものに巻かれるだけで、振りほどこうとする努力さえしようという意欲が垣間見られません。中央銀行が独立性を保つというのは、政府に非協力な態度を取るということではないと思うのですが、門外漢が外から眺めた印象では、厭味なエリート集団という印象に映ります。

デフレ下では優良企業の資金需要も少なくなります。デフレ不況で経営の厳しい企業の資金需要はありますが、銀行は綱渡り状態の会社に融資するよりも、国債を買っていた方がリスクはありません。金融円滑化法で、銀行の行動は抑制されていましたが、今月からは本音を露わにした行動パターンをとっていくのでしょうか。

さて、こうして、緊縮緊縮で縮こまっていけば、どこかで実需に生産が合致してくると考えられますが、物価が更に下がり企業の売り上げは減りますので、ギャップはなかなか埋まらずに、合致点は更に遠くなってしまいます。

こうした状況に慣れてしまうと、現状が程良い状態と是認するようになる人もいます。
物価が下がってきたため、一見暮らしやすくなっているように見えるのかもしれません。
特にマスコミには現状を変えていこうという政策に対して、抵抗が強いように見えます。

報道関係者は、庶民の声をすくって、ニュース番組として流し、政府を牽制しますが、自分達が全産業の中でもトップクラスの給与水準の中にいますので、その主張は変に肩に力が入りすぎたものになりやすく、実態を正確に伝えにくいという特徴があると思います。単なる声を届けるだけで、いろいろな声をウエイト付けして、最適解に持っていくためには、どの種の声を大きく報道すべきという哲学も方法論も見られません。

もちろん報道関係者の処遇も一部を除けば下がってきてはいますが、いまだにトップクラスです。
トップクラスではありながら、下降の勾配になっているために政府に対しての恨みだけは強く持ちやすくなるという傾向があるのではないかと思います。

そのため、物価を上げ、その結果、給与を上げ国民の可処分所得を増やしていこうという施策を打ち出そうとすると、マスコミを通した反対の声が大変強くなります。
まるでデフレのお風呂に浸かって慣れてしまった蛙のようです。