市場には神の見えざる手?

日本の景気は、ともすると安倍政権の経済政策で一直線に浮上するかのような雰囲気です。
実際は、3本の矢が整うには、まだ、山あり谷ありです。
しかも、世界は日本の力で廻るわけではありません。

デリバテイブ商品の波及効果を思い知らされたのは、リーマンショックの時でした。
リーマンショックの生じた頃、アメリカやヨーロッパの金融機関は大きなダメージを受けました。
当初はアメリカの住宅関連のローン絡みの不良債権のため、日本では、その影響は限定的なものになるだろうと考えられていましたので、まさか、日本がこうまで大きな影響を引きずるとは思ってもみませんでした。
保険は世界レベルで引き受けあっていますので、せいぜい保険業界での狭い範囲の影響と思っていましたが、直接的ではない影響が、とても大きなものになってしまいました。

リーマン・ブラザーズの負債総額は、当時約6,000億ドルと言われました。
アメリカの2012年国家歳入予算は2兆4650億ドルです。カナダで6,793億ドル、スペインで4,851億ドルと、先進国の国家歳入並みの金額です。

先進国の国家予算規模の負債を、一企業が一体どうやって生み出したのかと恐ろしくなります。
しかし、業界の負債はこんなものではなかったのです。

欧米の金融機関は、リーマンショックのダメージから、潰れたり吸収されたりなどの経過をたどりながら、大規模なリストラを行って浮上しようと試みてきました。
その甲斐があってか、最近では利益体質になってきているようです。
しかし、これは膨大な不良資産を本体の業績から切り離したために収益が出ているだけで、気が遠くなるような負債が陰に隠されています。
デリバテイブという、先物などの相場の調整弁、リスクの分散機能をはるかに超えてしまった経済行為を創出したため、負債が生じた際にはその負債も膨大なものになり、現に消えずに残っています。
(財政投資での乗数効果は、景気浮揚に欠かせないものですが、負債が乗数効果を伴って累積してしまっているという簡単なイメージしか私は持ち合せていません)

いまだに処理できていないものもあるそうですが(処理できていないというのは負債が処理できそうな値段付けができていないということ)ので、その金額は確定したものではありませんが、日本円で2,000兆円程になるのではないかという人もいます。

気の遠くなる金額ですが、欧米の金融機関は、この負債の穴埋めを行わなければなりません。

アベノミクス日本株が上昇波動だと判断すれば、大量に資金を入れて買いに入ります。
しかし、株は一本調子で上げるだけでは利は少なく旨みがありません。個人ではなかなかできないことですが、上げ下げを繰り返すことで、上げて儲けて、落として儲けていきます。
何らかの理由で調整させて売り叩いて株価を落とし、下がったところでまた買い戻して利ザヤを取って、また上げていきます。

ごく最近では、この下げの理由にされたのが、キプロス問題でした。現地ではそれほど大きな問題ではなかった筈ですが、市場関係者の中では大きくアナウンスされたため、日本市場でも株価は大きく下げました。
先日の株の上昇でニコニコしていた知人は、この時怖ろしくなって持ち株の多くを手放したと言います。かなりの損を出したようですが、その後の上げでまた挽回しているようです。

欧米金融機関は、上がった日本株の利益を出すために手持ちの株を売却します。そうして悪材料であるキプロス問題を市場にアナウンスして、今度は貸借した株を大量に売りに出します。
膨大な売り物が出てきますので、株は下がっていきます。キプロス問題が深刻だというアナウンスで、上げ相場が終わって調整に入るのではないかと不安になった個人は、暴落を恐れて損を覚悟で手持ちの株を売りに出します。
大幅に下がって利が乗ってくると、欧米金融機関は売却した貸借株の買い戻しを行い利益を得ます。また、別に大量に買いを入れて、上昇相場への備えを行います。
欧米金融機関の筋からキプロス問題が解決へと決着が着きそうな材料をアナウンスします。
悪材料が決着すると思い、相場も下げ止まったのを見て安心して日本の金融機関や投信、個人も乗り遅れまいと、買いに入ります。

こうして私の知人などは、その都度揺さぶられているわけですが、揺さぶっている金融機関やその意向を受けているファンドは巨額な利益を得て、膨大な負債の穴埋めに廻すのだと思います。こうするしか穴埋めの方法がないでしょうから。
機会均等だと思って個人で株式市場に参戦している知人は、思い切り揺さぶられます。こうしたシナリオも見えていない人も多いでしょう。

資産効果が出てくると、謙虚さを忘れて傲慢になってくる人も多くなりますが、視点を変えると、自分達が主体的に動いているようで、実は振り回されているという面があります。
アベノミクスで株価が上がっている面もありますが、アベノミクスを利用して膨大な資金をつぎ込んでいる外資によって相場は左右されているといった方が、実態に近いのではないかと思います。

彼らは今後もスペインやギリシヤ、イタリアなどの信用不安やドル不安などをアナウンスしたり、また、地政学上の不安が生じれば、それを下げの口実として情報操作もします。こうして、必要以上に演出された相場の下げに乗じて巨利を得ることでしょう。
またアベノミクス効果も終わり、日本の相場が終焉だと見れば、思い切り売り叩いて暴落させ、暫らく市場が回復できない位に毀損させた上で買い戻し、巨利を得て日本市場から去っていくでしょう。

強い意志が市場にある場合、神の見えざる手による自動調整メカニズムは働きません。それも含めての市場という言い方もあるでしょうが。

冷めた見方かもしれませんが、私がこう思うのは、1997年のタイのバーツ売りから始まったアジアの通貨危機の際の投機グループの存在で、いくつもの国が危機に瀕したことがあったからです。

市場参加者は、ルールブック通りにゲームを行うとは限りません。いくら制御しようとしても、ルールブックに盛り込めない場合も出てきます。
この時、自由市場経済は、多くの人を不幸にする場合があると思いました。そして、この自由とは欧米が他の国を食い物にする自由ではないだろうかなどと被害妄想的に思ったものでした。