安倍政権の陥穽

向かう所に障害がないかのような安倍政権ですが、
冷静に考えれば、由々しき状況が見えてきます。

逆説的ですが、安倍政権の足を引っ張りそうなのが、安倍政権の政策を支持しているアメリカの存在に見えます。
これは、日本がデフレからの脱却に際しての足枷となりそうです。

アメリカは膨大な債務を抱えています。
昨年は財政の崖の問題がクローズアップされ、年末には世界からその動向が注目されました。
2000年に大型減税を期限付きで実施したのはブッシュ大統領でした。
その後、リーマンショックにぶつかったオバマ氏は、景気低迷のため大型減税の期限を延長させました。
この猶予のため財政赤字が増えていくわけですが、この減税の猶予期限は昨年2012年末で、本年の2013年からは別途増税になるというWパンチに見舞われます。
景気が崖から突き落とされるかのようで、財政の崖と表現されています。

アメリカは、国の債務残高の上限規定がありますので、政府は必要以上に債務残高を増やせません。そのため、景気対策に必要と思える対策を打つ場合も、民主党政権共和党にお伺いを立てながら院内運営を行わなければなりません。
昨年、一昨年と、オバマ政権はこの綱渡りに苦慮していたようでした。
2011年5月には米連邦債務は法定上限額に到達したため、その対応として民主党共和党は政府の歳出を削減する内容を含んだ債務上限引き上げ法案に合意してこれを可決しました。

この時点で、その後の歳出削減案を具体化させて共和党の合意を得られない場合、ブッシュ減税の延長措置期限の2013年1月1日から9年間に渡り、公共事業・社会保障・国防等の政府の全ての分野の歳出合計1.2兆ドル分(この約1/2が国防費になると言われています)が強制的に削減されるという、強硬措置が取られます。
これは、多方面に大きな影響を及ぼしますので、昨年末までこのニュースが大きく取り上げられていたわけですね。
期限日の2012年12月31日に、上・下両院で、富裕層を除く層を対象にした減税の恒久化と世帯年収45万ドル以上の富裕層に対する増税を決めました。
これにより家計の平均税率は1.8%増に抑えられるそうです。

歳出削減案は、そんな簡単に出せるものではないでしょう。
歳出の強制削減を2013年2月28日までの2ヶ月間凍結する法案もこの時可決されましたが、これは問題の先送りで解決策ではありません。
しかし、この時点では大幅な実質増税と強制歳出削減のダブルパンチによる財政の崖は昨年末時点で回避され、即影響の出る市場関係者はやれやれとなった訳です。どこの国も、目の前には由々しき問題が多く、政治家は大変なストレスにさらされているようです。問題の先送りをせざるを得ない場合が多いでしょうが、先送りは悪いことばかりではなく、市場のショックが和らぐという効果が出る場合もあります。

この延命策はすぐに期限到来でした。強制歳出削減凍結の現地期限日2013年2月28日でも、民主・共和両党で具体的な歳出削減案の合意に至ることができませんでしたので、2013年3月1日にオバマ大統領は強制歳出削減措置に署名しました。
この影響は、やがて世界レベルでいろいろな問題を惹き起すことになるのでしょう。

足元の国防費が大きくカットされるため、オバマ大統領は中国にもイマイチ強硬路線を取れません。
それどころか、日本の頭越し外交を再度行うのではないかなどと言われています。そうすれば、中国はアメリカに尖閣諸島の領有問題に口出しをするなと釘をさすでしょう。ヒラリーさんと違ってオバマ氏は日本に対して距離を取っているようなところがありましたので、不干渉ということになるかもしれません。そうなれば、中国は平穏な中に尖閣諸島を武力で領有することができます。まー、そうなる前に共和党が黙ってはいないでしょうが。

アメリカは、日本が沖縄の基地問題でぐずぐずしているのを見て、相当イラついていたことでしょう。フイリピンを核にした防衛構想にシフトしたくなるのではないかなどと心配になってしまいます。

北朝鮮のミサイル発射問題に関しても、アメリカは強硬策をちらつかせながら、北朝鮮の暴発を抑えるような外交姿勢が明瞭ですので、北朝鮮の捨て身の外交もマイナスばかりではないのかもしれません。

4月にアラスカで行われる予定だった軍事演習「レッドフラッグ」が中止になったり、4月から軍人以外の職員約80万人を週休3日制にして、人件費を20%削減することも検討されているそうです。

地政学的な不安が、アメリカの国防予算の削減によって頻発するようになるかもしれません。その時に日本は、政情不安・経済困窮国にどのような貢献ができるでしょうか。
日本の政治家や経済界はこの種の問題には関心を寄せない人が多いようです。

しかし、その高邁な精神から関心を持って当然と思える人達もいます。
核問題や、原発問題、基地問題で平和のために反対運動を行っている方々です。
しかし、こういった方達も、より広い意味での平和の追求の問題に対しては、あまり興味をお持ちでないように見受けられます。
日本の内部での核や原発基地問題には反対するのに、中国ウイグルでの地表での核実験汚染や、敬虔で暴力を嫌うチベットの方達の虐殺については、反対のデモなど起すことはないように伺っています。この方たちは平和集会という名目で集まりますが、本心は平和を願っている訳ではないのでしょうか。

安倍政権の陥穽について記すつもりでしたが、国防の問題になってしまいました。