安倍政権の陥穽というより難しいかじ取り

歳出の強制削減をせざるを得ないアメリカは、日本の外交・国防面でのシワ寄せはもちろんですが、経済面でも大きな影響を及ぼしそうです。


オバマ大統領は財政の崖を乗り切りましたが、米国の過剰債務の実態が好転したわけではありません。
財政不安の状況で、アメリカは国債を増発してきました。リーマンショック以後も米国債を増発してきたことに、アメリカの窮状が垣間見えるように思えます。リーマンショックの処理が実質的に終わっていないということなのでしょう。

今後もアメリカは米国債を発行して、友好国に引き受けてもらわなければなりませんが、今や日本を抑えて中国が重要な米国債の引き受け手となりました。
この面でも、今後アメリカは中国に気を配らなければならなくなるでしょう。時折オバマ大統領が対中弱腰外交の姿勢に見えるのは、自分の思い込みだけでもないと思います。

中国は引き続きアメリカ国債を購入して、事あるごとにアメリカを脅す材料に使うことでしょう。
日本では橋本龍太郎氏が総理の時、冗談めかして米国債を売る可能性をほのめかせる発言をしただけで、市場は過敏に反応し、また、米国政府関係者は凍りついたような反応をしました。
このことが元で、橋本氏は失脚したとか、不審死を遂げたなどと噂されたりしますが、アメリカにとっては冗談ではすまないことです。

財政が厳しいのは日本も同じことですが、余裕のない中でアメリカに義理立てして、米国債を買い続けても、中国のようにそれを交渉のカードに使うのはタブーのようなもの。

しかし、困ったアメリカを助けない訳には行きません。道義的な面だけでなく、実利的な面でもアメリカに手を差し伸べなければなりません。
もし、アメリカ国債がさばけずに、アメリカの金融機関で引き受けできない膨大な量が、米国内で滞留してしまうようなことになったら、アメリカの金融不安は大炎上します。

ドルは暴落してしまうかもしれません。
そうなると、輸出企業を苦しめてきた円高から、せっかく円安に向かわせることに成功してきた日本政府の努力は無駄になります。もっとも円高で推移してきたのも、アメリカが国債を増加させてそれをFRBに買受けさせてきたことが大きな要因でもあるでしょう。FRB米国債を引き受け、お金を市中に供給します。ドルは安く円は高く推移して、日本がデフレ下の不況で苦しんできた要因でもあります。

さて、アメリカがそんな状態になれば、日本の努力が足りなかった訳ではないのに、またしても円高に戻ってしまいます。

輸出企業の収益向上により税収アップ、財政の立て直しを図っていた日本政府の目論見は崩れてしまいます。
下手すれば、デフレ脱却に失敗して、金融緩和の中で公共投資を行ったつけを回収できずに政府の債務が一層大きくなり、次の20年、30年が失われることにもならないとも限りません。

となると、結局日本も売るに売れないアメリカ国債をせっせと買い込むことになるのでしょう。
アメリカは公共投資を抑えられてしまっていますが、企業業績がそこそこ良く、消費性向も悪くなければ、金融緩和により、消費と民間の設備投資を喚起することも可能でしょう。
TPPにより、アメリカ企業一人勝ちの状態も、もうじき実現できるかもしれません。

それまで、ドルをどんどん刷ってインフレになれば債務も軽くなることでしょう。
ヨーロッパを横目に日米で金融緩和合戦をするというのは、他の国からどう映るのでしょうか。

日本の円安を不安視する人達も少なくありませんが、日米の状況を考えると、円安の目処も見えてくるような気がします。