ここにも参入障壁

今日の朝日新聞デジタル版によりますと、

有力大学の間で、1年契約などを更新しながら働いてきた非常勤講師を、原則5年で雇い止めにする動きがあることがわかったそうです。

これは4月に労働契約法が改正され、5年を超えて雇うと無期契約にする必要が出てきたからだとのこと。

具体的な事例として、大阪大、神戸大、早稲田大が規則を改めるなどして非常勤講師が働ける期間を最長で5年にしている事例をあげています。

労働契約法の改正により、有期の雇用契約の更新を繰り返して通算5年を超えた場合、働き手が希望すれば無期契約に切り替えなければならなくなったためで、大阪大と神戸大は、その理由を「法改正への対応」と明言しているそうです。
早大は、非常勤講師が3千人以上もいるそうですが、この非常勤講師を徐々に減らす方針で、「長期雇用の期待をもたせられない」(清水敏副総長)。もともと非常勤講師以外の有期職員は上限が5年。これに合わせることも考えていたといいます。この法改正が渡りに船といったところでしょうか。

大学側が雇用の保証が与えられないための非常勤講師ですので、大学側の対応も当然と言えば当然と思えますが、
この法改正が無ければ、非常勤講師という身分ではあっても7年、10年と教壇に立てる機会のある方もいるのではないかと思います。

法改正もこうした現象が生じるのを見込んでのことではなく、待遇が不安定な非常勤講師をなるべく長期雇用に持っていくようにとの思いだったのだろうと想像しますが、コストが絡んでくると、法改正がこうした行政の思惑とは逆の作用を及ぼす例は珍しくありません。

何だか、コスト競争のために正規社員を派遣に切り換えてきた民間企業を彷彿させ、再雇用の打ち切りにあった先生は気の毒に思います。
例え待遇が不安定でも、好きなことで生計をたてられるならば、非常勤講師の地位でも良しとしていた先生もいるでしょう。

一方では、見方を変えると、大学で教える学問は、実学に近ければ近いだけ鮮度が重要になってきます。今の社会で5年間鮮度を保つことのできる講座というのは、環境の変化の速い現代社会にあってとても内容が濃く重要度が高いものと思います。

他方、非常勤講師ではなく、ヒエラルキーの中で身分保障が守られている先生方の講座は、時代の波に、社会環境の変化の波にさらされているのでしょうか。
学問が全て現実社会へ放り込まれた際のバッファーの役割を負うという訳ではありませんが、例え実学からほど遠いアカデミックな学問でも、今の社会に生きる際、強烈な問題意識を持っている先生が教える学問とそうでない場合とでは、比較にならない程の影響度の違いが出てくるものと思います。

学問の評価は難しく、研究者には落ち着いた環境の中で励んでもらう必要があるとは思いますが、3千人の内の1%でも、這いあがれる環境があれば、双方に良い刺激になるのではないかと思います。
JリーグとJ2リーグとでの入れ替えが行われると、必死度が違うように思いますが、サッカーの順位と異なり何を尺度に入れ替えるのかという点がありますが、評価者にしっかりした視点があれば難しいことでもないでしょう。

既得権者と新規参入組との間にある参入障壁が、えてして実力あるものを弾くために存在している場合が多く、それがその組織の凋落に影響してきます。TPPでは農業以外のことでも、こうした問題が内在しているように思います。


もっとも、このことは、大きな問題を孕んでいて、視点を広くすれば、日本人のほとんど全員が既得権者と言えなくもない場合も出てきます。参入障壁を引き下げることで、私達が既得権者としてのベネフィットを失わなければならなくなる場合があります。