同一労働同一賃金(3)

グローバル企業は、事業展開している各国において、従業員の労働によるパフォーマンスに、なるべく同質性を求めようとすると思います。それが企業理念や社風の具体化ですので当然なことでしょうが。

もちろん国により、雇用慣行や労働に関する法規は違ったりするでしょうが、制約条件が多過ぎたり、パフォーマンスの低い国では、そもそもの事業性が低くなりますので、参入を控えると思えます。

既に事業展開している国は、労働市場としてメリットがある国(労働供給力がある、賃金が安くてすむ、手先が器用、理解力がある、真面目な国民、企業に不利になる労働慣行や法規がない、等々)であることや、その国の労働力が消費力につながる傾向値の高い地域かどうか、市場として有望かどうかということなど、いくつもの条件をクリアしている国と思います。

欧米企業と日本企業とで現地の労働者との労働契約条件が異なっているために、日本企業が撤退したくてもできにくいケースがでてきてしまっている中国のような場合もありますが、多くの場合は現地の状況に詳しいコンサルを交えたりして、参入を検討するものと思います。


こうして、海外での事業化を図ったグローバル企業は、それまでの本国や中国の工場での生産品の質と、現地工場での商品の質を比較したり、各国の労働者の質を比較して、本部の手間が特別かかるのでなく、均質な商品を同等のパフォーマンスで生産したり販売したりしているのであれば、その労働力の価値に差はないのではないかと考えるのは、ごく自然な流れに思えます。

ユニクロとして海外展開を行っているファーストリテイリング社は、世界同一賃金を導入すると明言しました。
上述したような文脈の流れで思考を進めていった時、ILOの原則でもある、同一労働同一賃金を唱えるのは、世界的にも模範的な優良企業という評価を受けることはあっても、まさかブラック企業の汚名をもって非難されることになろうとは思ってもみないでしょう。


ユニクロの場合は、日本国内での過酷な労働条件が話題になっていたり、中国などの委託工場に対するコンプライアンスの意識などもブラックの汚名を受ける一因になっているようです。
中国では、海外からの委託工場での児童労働などが問題にされましたが、欧米企業はその問題を自分達の問題として捉えるようになったといいます。彼らは自分達の商品を製造する場合の生産ラインで働く作業員の残業時間を細かく管理するようになったそうです。
自社工場の従業員ではないのに、法定労働時間を超える残業等がおこなわれていないかを厳しくチェックしているそうです。

一方、ユニクロの場合は労働環境の問題は委託先の企業の問題としているようです。中国企業に現場の監督責任を負わせるというスタンスなのでしょうか。問題が起きた時の法律的な責任などをうまく考慮した上でしたら、頭の良いやり方ということができるでしょう。しかし、現在先進国では、労働環境の問題やコンプライアンスは下請けを含めた上で考えていく流れにあります。進出先の国の人達と共に幸せを分かち合うという気持ちがないと、これからの社会でグローバル企業の資格はないのではないかと思います。

ところで、委託工場との調整で難しいのは品質問題もありますが、差し迫る大きな問題は納期の問題でしょう。委託先に不法労働を指示すると、問題が生じた時に自分達の責任も追及される危険性があります。
委託先には、間に合わないなら間に合うようにして欲しいと、暗に残業、徹夜作業を暗示するのでしょうか。
この辺は、日本国内では常識的に行われていた、大手企業の下請けいじめから学ぶところが大きいように思えます。


ちょっと脱線しましたが、海外展開を行っている世界企業が、同一労働同一賃金を当てはめようとするのは、一見極めて真っ当なことのように思えるかもしれませんが・・・
この問題は、もしF社が行わなくても、時間の問題で中国系のグローバル企業が明言してくるかもしれません。
また、明言することはなくても、現実問題として、例えば日本の労働者の給与は、同種の労働を行っている、より安い海外労働者の給与にサヤ寄せしつつあるのが現状でしょう。

しかし、こうして明言されると、事態は先行き日本人には厳しくなりそうですので、日本で働く人達は、ちょっと待ってよ、となるでしょう。
日本は物価も高いし、給与水準も違うんだから、他の国より少し色をつけてよ、くらいのことは言いたくもなるでしょう。