同一労働同一賃金(5)

国内生産品や農産品などが、海外からの輸入品に対して価格競争力がない場合、関税で対応する場合があります。
その商品を育てて基幹産業として成長させたい時や、国家的な観点から自国の供給力を保ち育てたい時、国は国内労働者が著しく不利にならないように、関税で障壁を設けます。

国内ユニクロの社員が一生懸命働いて、その結果世界の各国と同じ賃金をもらうとします。その同一賃金で、例えば、ベトナムでは暮らしていけるのに、日本では十分な生活ができない場合が出てきます。円安に振れているといっても、物価の違いは彼我の暮らしに大きな差をもたらすでしょう。

国は製造者や国内産業を守るために関税障壁にて対応をしても、ユニクロの社員が住む家賃をベトナム並みに下げたり、ユニクロの社員が購入する商品の価格をベトナム並みに下げてはくれませんし、ユニクロの社員のために税の再分配により給与の補填をしてはくれません。雇用保険や能力開発の援助等社会保障の範疇での対応はあっても、直接の補填はありません。

外貨を稼いでくれる産業や企業を国が育成した結果、その企業が多国籍企業となり、世界同一賃金を採用したりすると、国内労働者にシワ寄せがきます。
エリートにとって国境を越えた労働力は流動性が高く映り、能力を発揮できる場は多いでしょう。しかし、日本語の壁により守られていた多くの労働者にとって、労働の流動性は被害者意識をもって眺めやすくなると思います。

ところで、ユニクロ側にも虫の良い論理構成があるように思います。同じ商品をベトナムで物を作れば日本で作るよりも安く製造できます。(もっとも中国で生産した商品を輸入して日本では販売していますので、製造コストは大きく違わないかもしれません)

人件費は同じでも、販売コストは日本よりもベトナムの方が安い筈です。
一方、販売している商品の単価はどうかと言えば、同じ商品を日本と同じ販売価格では売れないのではないかと思いますが、実際のところ、どの国でも日本での販売価格に近い価格で販売しているようです。
バンコクユニクロ(セントラルワールド内)でも日本の価格と変わらないような価格設定でした。お客はあまり多くはなかったのですが。
ユニクロの商品は日本での販売価格を基準にして為替レートで価格設定をしているようです。
恐らく、日本での販売価格と大きな差がなくても、売れそうな国に出店しているのでしょう。

そうなると、日本の店舗と海外の店舗での利益率が気になります。
海外のユニクロは増収増益で順調のようですが、13年8月期予想では、国内事業の営業利益率は15.8%に比して海外事業は8.5%と利益率には大きな差があります。
もちろん、販売ボリュームが、連結売上高の63.0%(営業利益の71.4%)と国内ユニクロ事業の比率が圧倒的に高いためでもあると思います。各国の販売数量が増えれば利益率も上がっていくでしょう。

しかし、この利益率等の数字は、世界同一賃金が完全に反映された結果ではありませんので、この数字からして、世界同一賃金制をとるという考えが出てくるのが不思議な気がします。
仮に海外の利益率に比して日本の利益率が同等だったり、少なかったりする場合でしたら、経営者が考えそうなこととは思いますが、売上高比率以上に国内販売の営業利益が多いのですから、国内従業員の士気の低下を招くような制度変更を行うと主張するのは危険なことのように思えます。

ユニクロの中だけで物を考えると、商品の大部分を中国で委託生産して、各国為替レートで換算して同じような金額で販売しているので労働価値も同一にすべきと自然に感じるのでしょう。しかし、各国はその他いろいろな条件が違います。それらも為替レートの違いだけで同じベースにできるのでなければ、賃金を同一というのは乱暴なように思います。

グローバル企業の給与は支払金額を同一とするのではなく、その国々で生みだした収益ベースで捉える必要がありますし、企業レベルだけで、また、企業論理のみで決められることではないと思います。
国により利益率が違うのに、その労働対価を同じくするというのは公平とは思えません。
ILOの、同一労働同一賃金の原則は、同じ付加価値を生み出した場合の労働報酬は同一の価値があると考えるべきでしょう。