西部劇の魅力(9)Soldier Blueの世界

先住民を襲った不幸な事件を照らし出すことで、アメリカの欺瞞性を顕わにした作品ともいえる、映画ソルジャーブルーの中で生じた事件、サンドクリークの大虐殺は1864年11月29日のことです。


ところで、ウイキペデイアによると、「大草原の小さな家」の時代は、西部開拓時代のアメリカ(1870年代から1880年代にかけて)を舞台にしており、インガルス一家はウィスコンシン州カンザス州―ミネソタ州サウスダコタ州と移り住む。
とあります。

大草原の小さな家の時代は、この虐殺事件の後に当たるようです。
事件はコロラド州で起きましたので、インガルス一家の身近には、この事件を経験している人はいなかった可能性が高いですが、噂話位は伝わってきていたでしょう。

いかにコロラド州や合衆国政府が虐殺を秘密にしようと思っても、当時は大量の入植者達がフロンティアを求めて、新天地にどんどん入り込んでいた時代です。これだけの大きな事件を消し去ることは難しいと思います。

それならば、むしろ、政府や州は虐殺でなく、ネイティブアメリカンが白人に危害を加えようとしたために、退治したといった情報操作を行うことでしょう。

実際、ウィキペデイアによれば、1864年11月29日のサンドクリークの大虐殺は、下記のような見出しで報じられたということです。

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12月8日、デンバーの地元新聞『ロッキー山脈ニュース』は、次のように見出しを挙げた。

インディアンとの大会戦! 野蛮人どもは追い散らされた! インディアンの死者500人、わが軍の損害は死者9人、負傷者38人!

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こうした積極的情報操作のため、キャロライン・インガルスさんは、怖いのは白人ではなくネイティブアメリカンだと思っていたのでしょう。もちろん、妻や子供が何の落ち度もないのに殺されれば、報復しようとするネイティブアメリカンもでてくるでしょうから、白人にとって脅威であることは間違いないとは思いますが。


大草原の小さな家の初版本の一節のように、アメリカ合衆国自体も、ネイティブアメリカンを動物でも人間でもない存在と見ていたのでしょうか。
それゆえ、ネイティブアメリカン達が生活している空間に侵入して、後から来たのに先住者達の首を絞めるような法律を作り、それを理由に締め付けを厳しくしていくなどということができたのでしょうか。

相手を人間と思わないほどの強烈な差別意識なのか
優生学的な自己過信なのか
正義のため、否、『シラミの幼虫はシラミになるから』などという非合理な理由であっても、理由さえみつければ相手を抹殺しても良しとするような狂信性なのか

アメリカが、ネイティブアメリカン達の人口では、住むのに広過ぎた土地であったということと、農耕民族ではなかったために、領土意識が希薄であったということも不幸を大きくすることに働いたと思います。
彼らが、もう少し狭い地域に暮らしている農耕民族であったなら、侵入者に対して自分達の耕作地が減らされて飢えてしまうといった直接的な危機感を感じるでしょうから、領土意識を強く持つことができたことでしょう。
もっとも、これらは、ネイティブアメリカンのせいでも何でもありません。

否、仮に、領土意識がもっと強くて、ネイティブアメリカン達が肩を寄せ合うように狭い地域で暮らしていたとしても、彼らは白人達が入植してきたら、親切にも受け容れたかもしれません。

ネイティブアメリカンは譲り合って生活するのを基本とし、例え折り合いが悪い部族があったにしても、棲み分けをして共存を図ってきたようなところがあります。
部族や民族を殲滅させるというようなことは、考えもしなかったのではないかと思えます。